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高松地方裁判所丸亀支部 昭和48年(ヨ)61号 判決 1974年4月17日

債権者 松本昌雄

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 玉置寛太夫

同 武田安紀彦

同 野田孝明

債務者 生活協同組合香川県労働者住宅協会

右代表者理事 志村利雄

同 株式会社光建設

右代表者代表取締役 上代弘

右二名訴訟代理人弁護士 三野秀富

同 城後慎也

主文

一  債権者らの本件仮処分申請をいずれも却下する。

二  訴訟費用は債権者らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判並びに主張は別紙(一)記載のとおり。

二  疎明関係は本件記録中の証拠目録記載のとおり。

理由

(書証の成立について争いあるものは、弁論の全趣旨によって真正に成立したものであることが認められるので、以下書証の引用については単に書証番号のみを掲記することとし、更に掲記証拠中認定事実に反する記載部分、証言部分又は尋問結果部分は、特段のことわりなくとも措信しえないものである。)

一  申請の理由第一、二項は債権者稲毛が本件居室を賃借しているとの点を除き当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば、債権者稲毛は、同人の実父稲毛国一の所有するみどり荘(昭和四一年一一月建築)一階東端の部屋を賃借して金融業を営むとともに、右アパートの管理人として、本件居室を無償で借受けて、養子及び債権者稲毛と親類関係にある武智母子と共に居住して生活していることが認められ、これを覆すに足る疎明はない。

二  債権者らは、本件建物が完成すると、日照、採光、通風阻害等が生ずる旨主張するから、まずこの点について判断する。

≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、

(一)  日照、採光関係

本件建物の敷地である本件土地は、もと空地であって、前所有者の訴外藤井酒造株式会社が酒樽等の置場所として使用していたものにすぎず、債権者らの本件病院、居宅、居室部分に対する西側からの日照を妨げるものは存在しなかったので、債権者らは他人の土地空間を利用して現在に至るまで西日を受けることができ、終日日照の利益を享受してきた。しかし、本件建物が完成すると、冬至(一二月二三日ころ)において、債権者昌雄、同千代子所有の本件病院、居宅は、おおむね午前一一時三〇分ころから直射日光が当らず、西側からの採光もあまり期待出来ないようになり、債権者稲毛の本件居室部分も、右時刻ころから本件建物の日影によって採光が相当程度に阻害される。(別紙日照図参照)

<図省略>

(二)  通風関係

本件建物の規模からみて、西風の通りが従前に比較して悪くはなるが、債権者昌雄、同千代子の本件病院、居宅と本件建物とは柱部分で約七〇ないし一一〇センチメートルの間隔があり、債権者稲毛の居室部分の西側前面には本件建物は存在しないのであって、いずれも通風が全く妨げられるものではない。

(三)  威圧感関係

本件建物の高さ、本件病院、居宅との距離等からして債権者昌雄、千代子が相当の威圧感を受けることが認められるが、債権者稲毛の居室の前には本件建物が存在しないところから、本件建物の威圧感は否定出来ないにしても、その程度は著しいものとはいえない。

三  本件建物の完成によって予想される債権者らの日照妨害等は前項で認定したとおりであるので、次に右被害が債権者らにおいて社会生活上一般に受忍すべき限度を著しく超え、右建築工事につき差止めを命じなければならない程度の違法性が存するか否かについて判断する。

(一)  ≪証拠省略≫を総合すると次の事実が認められる。

1  本件係争地の位置状況は別紙土地建物配置図のとおりであり、本件係争地付近の地域性として、用途上現に住居地域であるが、国鉄丸亀駅に近く、本件病院前を県道丸亀・詫間・豊浜線(巾員一一・七メートル)が走っており、閑静な住宅街ではなく、丸亀市の中心部に近く、付近には四階を超える建築物はないけれども、建物の大部分は二階建で、しかも敷地の東西の境界線一杯に、密集して建てられており、東面からの日照確保には殆んど考慮しておらず、もっぱら南面からの日照に頼っている。

<図省略>

2  本件病院・居宅の各部分のうち、西ないし西南面からの日照を直接利用しているのは一階炊事場奥三畳間(昼間炊事婦等の休憩室として使用)、二階病室(右三畳間の真上にあたる)、三階西側病室(同室は南面からの日照も終日ある)のみであって、その他の西ないし北面の窓はいずれも採光を主たる目的とし、直接の日照を考慮していない。また本件病院の東側一階部分は境界線より約四〇センチメートルしか離れておらず、かつ境界線上に隣接の丸高運送が倉庫の壁を兼ねて設置した高さ約四・五メートルのブロック塀によって日照はおろか採光も零となっており、その他の病室等も直接外部への開口部がないところは、すべて直接の日照、採光は零である。

3  本件病院、居宅は本件建物の敷地である本件土地の境界線と極めて接して建てられており、また増改築を重ねたことによって構造自体が非常に複雑となっているのに、日照、採光、通風等につき、西側よりのものに一部依存している外、全体として特段の配慮が払われているとは認められず、建ぺい率についても、直ちに違反とは断定しえないものの、その疑は濃厚である。本件病院、居宅と本件土地の境界線との間隔が殆んどないということは、他人所有の空地を安易に利用したためであり、本件境界線上に接して通常予想される程度の高さの建物が建築されたとすれば、本件病院の西側は東側部分と同様に日照は勿論のこと採光も殆んど期待しえなくなることは明らかである。(本件病院、居宅につき、西側よりの日照、採光、通風等の保護を主張するためには、自らも境界線より相当の間隔をおいて建築をすべきである。)

4  債権者稲毛の居室についても、右居室を含むみどり荘アパート一階部分は、接近して建っている本件居宅及びレントゲン室によって南面からの日照を相当程度に阻害されており、また本件居室の西側からの日照も、右居室西側窓部の前面に債権者昌雄が設置した燃料庫および樹木によって、かなり阻害されている。

5  本件建物が債権者らの申請通りに設計変更された場合、債権者らは冬至において午前一一時ころから同一一時三〇分ころまでの約三〇分間位日照を回復しうるに過ぎない。

(二)  次に、本件建物の建築ができないときの債務者らの損害については、≪証拠省略≫を総合すると、本件建物の有用性、その経済的目的よりして、設計変更の余地は少なく、債権者らの主張する設計変更は、建築中止にいたらざるを得ず、かくては債務者労住協は既に設計料として金八九〇万七、五〇〇円を米澤建築設計事務所等に支払ずみである外、債務者会社も基礎を打ち終っており、債務者らは現実に経済的損失を受けるばかりでなく、本件土地の使用が制限され、自力で一戸建ての土地建物を購入する資力のない者にも住居を供給するという分譲マンション計画が挫折することにより、さらに有形、無形の損害を蒙ることが認められる。これに対し、日照、通風等の確保が快適で健康な生活の享受のために必要不可欠の生活利益であることを十二分に考慮しても、債権者らが債務者らの蒙る損害に匹敵ないし上回る損害を蒙ることは、これを認めるに足る疎明がない。

(三)  以上のとおり本件係争土地付近の利用状況、債権者らの本件土地からの日照の享受状況、債権者らの土地、建物の利用形態、日照確保に対する配慮の方法、程度等認定したところを総合勘案すると、結局債務者らが本件土地上に本件建物を建築することによってもたらされる日照等の妨害は、債務者らにおいてすべて甘受しなければならないものではなく、債権者らより債務者らに対して差止めに代わる損害補償の請求ができないものとは断定しないけれども、債務者らが本件建物をその設計どおり(十分な空地を残さない憾みはあるが)建築することを債権者らにおいて今直ちに差し止め、その主張の如き設計の変更をさせなければならない程度に、著しく債権者らの受忍限度をこえているものということはできない。また、低層住宅地域を中高層化して、広い空間を利用する都市再開発は時代の要請であるという相当性をも考慮すべきである。

四  従って、債務者らの債務者らに対する違法な生活妨害、人格権の侵害ないしは不法行為に基づく妨害予防請求としての本件建築工事差止請求は認容することはできない。結局債権者らの本件仮処分申請は被保全権利の疎明がないことに帰着するが、本件では疎明に代る保証を立てさせて債権者らの申請を認容することも相当でないと認められるから、本件仮処分申請はいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 越智傳 裁判官 堺和之 澤田英雄)

<以下省略>

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